MYITTAの工房

日々のくらしや手作り、ときどきミャンマー

September 2009

ビルマ最大の仏教遺跡バガン(バガン遺跡(1)はこちら)は、中部ジャワおよびクメールとならぶ東南アジアの三大仏教遺跡といわれる。しかしバガンには、前二者にはない真正アーチやヴォールト架構などの建築技術に特徴がある。

石やレンガによる組積造の建造物では、窓や出入り口などの上部に架けるアーチ構造には、大まかに分けて、部材を水平にせり出して間隔を狭めてつくる迫り出しアーチと、部材を放射状に積む真正アーチとがある。後者は古代ローマなどの地中海沿岸の巨大遺跡に用いられていたが、南アジアや東南アジアでは迫り出し式が一般的である。

ところが、バガンでは真正アーチに近い技法でつくられ、頂上部が尖った尖頭アーチや、これを水平方向に連続することでつくられるヴォールト架構が数多く残っている。中には、二重に架けられたヴォールトの上下の間に空間をもつ、いわゆる二重殻になっているヴォールトも残されている。

なぜここにだけ、このような技法が用いられたのか。上部の巨大なストゥーパ状の構造物を支えるために、構造上の必要性から地元で編み出されたものなのか・・・?それとも、どこからか伝わったものなのか・・・?海のシルクロードのルートを考えれば、隣接する地域ではみられない技法が、遠方から伝わった可能性もあるのではないか・・・?

組積造建築において、アーチやヴォールト構造は、大変注目されるテーマでもある。ビルマのアーチについて学術的な研究成果が出ているのか、現時点では確認できていないが、これからも注目してぜひ調べてみたい対象である。


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女性用のロンジーであるタメインの布には、さまざまな色や模様がある。生地は、伝統的なシルクやコットンのほかに、最近では化繊も少なくないが、国土の大半はなんといっても暑いお国柄、コットンが主流だ。女性たちは気に入った布を選んで服を仕立ててもらい、おしゃれを楽しむ。既製品はほとんどないので、通常オーダーメードになる。

固有の伝統をまもる国境周辺の少数民族の布は別として(民族調という意味ではこちらのほうが関心がもたれやすいが)、マンダレーやヤンゴンなど、大都市の布のマーケットでは、プリントものやタイからの影響の強い模様の布などもあり、さらに毎年流行の新柄も売り出される。

上下お揃いの伝統的なお洒落着では、コットンの布地にかわいらしい花やひし形の模様が織り込まれているものが多い。

このような模様は、模様の部分の横糸に模様の色の糸を足して織っている。上下一着分の布地ごとにつくられる一反の布には、あらかじめブラウス用とスカート用の模様が織り分けられており、タメインの正面にもっとも華やかな模様がくるようにデザインされている。

とはいえ、大きな都市では、若者はジーンズにTシャツといういでたちが主流になりつつある。顔立ちがミャンマー人そっくりな私が、主人の実家であつらえてもらったビルマ服を着て生地のマーケットをうろつくと、よく地方から来た生地のバイヤーと間違われ、今年はこの模様が流行よ、あなたどこから出てきたの、とビルマ語で声をかけられる。


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DSC_0079ミャンマーの幾何学模様の刺繍をアクセントにしたルームシューズをつくりました。

ナチュラルな麻布の地に、ターコイズブルーの刺繍が映えます。お揃いで携帯用のポーチも。

シンプルながらもアジアンな雰囲気が楽しめるデザインで、子どもの行事でのおでかけや、飛行機の機内など旅行のシーンで、ちょっと心ときめく携帯スリッパとしても活躍してくれます。色違いもあります。

材料:麻、コットン、ビニールクロス(底布)、皮紐、木製ビーズ
スリッパサイズ:26cm ×10cm
 


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布を使ったミャンマー(ビルマ)の工芸品の中でも際立つのが、シュエジードー。'金の糸で縫う'を意味するシュエジードーは、ベルベットの地に、ビーズやスパンコール、金糸、銀糸を使い、立体的な刺繍やアップリケを施し、模様や図像を表現する。

シュエジードーの技法で作られたものとしては、カラガと呼ばれるタペストリーが有名で、その歴史は17世紀にもさかのぼる。伝統的に寺院におさめられたカラガは、仏教説話をモチーフにしたものが多かった。

ほかにも、宮廷や人形芝居の衣装にもシュエジードーの技術が用いられてきた。

制作に大変な根気を要するシュエジードーは、英国支配以降に次第に廃れていったが、20世紀後半になって再興される。

現在では、マンダレー近郊で生産され、服用の布やタペストリーのほか、バッグや小物入れ、財布など土産物としても大変人気がある。

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先日、フェアトレードショップでミャンマー産のシルクのスカーフを購入してきた。かなり張りのあるこげ茶の縦糸に、細いグレーの横糸で織られており、透け感があるのに、しっかりとしていて、デザインも洗練されている。デザインを日本の方が指導し、現地の織物学校で作られたものだという。

最近、フェアトレードについての本や情報をよく集めていた私は、ミャンマー製にしてはとてもモダンなデザインにウキウキしながら、夫とフェアトレードの可能性について話してみると・・・いろいろと現地人側からの意見が。

いろいろあるが、一番議論になったのは、各地のフェアトレード商品全般で主流となっている、先進国の人が先進国の人向けにデザインした商品はフェアじゃないのでは、ということ。

このデザインじゃ売れないから・・・と、海外で売るためといって、現地の人だったら絶対に使わないデザインのものを作らせていることに、そしてお金をもらえるからという理由でそれに従っている現地の人に、フェアじゃないものを感じる現地人は少なくないという。

フェアトレードのポリシーとして、現地で廃れかかっている伝統的な文化の継承を目指して・・・云々ということもよく聞かれるが、現地での伝統的なデザインだって廃れてはいけないのではないか。

経済的な面に着目して、技術者の確保や関係者の自立支援を促すというフェアトレードの一つの目的は、私は全く賛成で、できれば自分も支援していきたいと考えている。しかし、対象国出身者の目線はそうでもない、ということが私にとっては新鮮だった。客観的な提案に反感がもたれるのは、ときに無知による場合もあるが、独自のやり方に高い誇りをもっているため、ということも見落としてはならないと思う。文化であってビジネスではない場合である。そういう国際的な理念との軋轢は、私がかかわっていた文化財の保存の場合にもよくあった難しい問題である。

そもそも、必要だから作っていたはずのものが廃れかかること自体、現地における市場原理も働いている。そこにはデザイン以外の問題もあるのだから。そこに売れるものを作る、という資本主義的な働きかけをすると、どうしても市場は外国人向けになる。実際に地元の人には必要ない、欲しいと思えないものである場合が多い。将来的には現地の人に活動を継承してもらって・・・とまでいうのだが、それは本当に先進国の側からの見方にすぎないことも事実だろう。

ちなみに、夫が抱く反感は、ガイジンによるガイジンしか買えないデザイン、それを社会的な事業として讃える最近の風潮に対しての模様。外国人がデザインしている場合には、なにもフェアだの社会貢献を全面に出さず、普通に新しいビジネス、というのなら何の抵抗もないのだそうで。

でもフェアトレードという言葉には、アンフェアな国際企業の労働条件下に苦しむ現地人がいることや、途上国の生産者の現状について、関心のない人にも考えてもらおうというのが本来の趣旨なのだから、とても意味がある。ただ、その言葉自体が、先進国側からの概念であることは間違いなく、現地のひとが’フェア’という言葉に、彼らの個性を認めること、を求め、ときにそれが裏切られていると感じるのも無視できないことだと思う。

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